15分文学

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拒否

思えば、たくさんのことを受け入れ続けてきた。桜が舞えばその美しさを讃え、人の手料理をおいしそうに頬張り、本を読んでは涙を流した。そして今、テーブルに出されたクリームシチューを白飯を前にして、気付いてしまう。いったい、そのどこまでが本心だったのだろうと。

むくりと生まれた疑念は、浴室を腐敗させる黒カビのように増殖していく。ああ、そうだ。わたしは人の手垢が付いた料理など、微塵も好きではなかったのだ。

そもそも、桜が美しいというのも幻想ではないか。桜の木の枝にはいつだって毛虫が這っていたし、木の下には死体が埋まっているように感じられて気味が悪い。それでは、本を読み、流した涙の正体は。それは感動の涙ではなく、もしや、作者への嫉妬や羨望からくるものではなかったか。

むぎゅむぎゅと咀嚼音が響く。金属製のスプーンがざらついた陶器のボウルをすべる音が耳障りだ。潮時とは、かくも唐突にやってくるものか。しかし、そう思いながらも次に移すべき行動すらわからずに固まっている自分の姿は、なんと滑稽なことだろう。

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テーマ「拒否」

2017.4.17