15分文学

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ある空間についてのテキスト

トーブの熱を感じる。それは灯油を入れるタイプの古いストーブで、その傍で、わたしは体育座りで寄り添うように暖をとっている。こっち来なよ、とは言われない。わたしの斜め後ろにいるあの男からは。視線すら感じない。ただ、ストーブの上に置かれたやかんが、かたかたと音を立てている。

わたしは意識を集中させる。そこにあるすべての物事に。窓の外の明るい日差し、テーブルの上の焼き菓子、床の板、外を歩く人の声。しかしそれらは集中すべきものではない。わたしが本当に集中したいのは、斜め後ろのあの男。けれど、それには集中できずにいる。

もっと近くに行きたいけれど、行けない、行かない、行ったらすべてが終わりそうで。どうして終わると思うんだろう。どうして行かないのだろう。時計の針が時を刻む音が聞こえる気がしたが、それは気のせいだろう、だってここには時計がないのだから。けれど、時間が過ぎていく。それだけはわかる。あと数分でこの時間は終わるんだ、それだけはわかっているのに。

ふいに来客がある。客人は空間に新たな空気をもたらし、そして斜め後ろの男は「斜め後ろ」の男ではなくなった。ただわたしだけ、取り残される。わたしだけ、わたしの思いだけ、その場に残る。それでよかったんだと安堵にも似たため息をつく。ねえ、もう少しこの時間が続いたら言ってくれた?こっち来なよ、って。喉元まで出たその思いは、ただ喉元で消えていく。それは好きなのではなくただの執着なのだと、わたしはわたしに言い聞かせる。その言い聞かせが何の役にも立たないものだとわかってはいても。

さあ、そろそろ準備をしようか。その男はそう言ったけれど、それが何のことだか、わたしは考えられない。準備…準備をしなければならないんだ。何の準備か思い出せないまま、わたしはのらりくらりと立ち上がった。

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テーマ失念

2015春?