15分文学

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断捨離

恋人がいなくなって、一週間が経った。「もう生きてる理由がない!」と、歓楽街のど真ん中で突然叫んで走り出すようなトリッキーな恋人だったので、心配こそすれど、さして驚きはしなかった。驚かなかった自分には少々驚いた。

それにしても、本当にいなくなった。アパートに帰ってきた形跡はないし、勤め先へも行っていないらしい。共通の友人へそれとなく尋ねてみても、「何かされたの?」と逆に心配されてしまう。否が応でも自分の時間ができ、ネットで調べたレシピ通りにチャーシューを4時間も煮込んでみたりするが、やはり帰ってこない。夜になれば「いやー、飲んだ飲んだ」といつもの調子でドアをバンと開けられる気がするが、一向に帰ってこない。部屋の荷物もそのままだ。けれど、よく見ると服が、それもお気に入りであろう数着だけがなくなっていたので、少し笑った。恋人はずっとダンシャリをしたがっていた。ダンシャリダンシャリと恋人が口にするようになったその一週間後に、「ダンシャリ」は「断捨離」と書くのだと知った。おそらくだが、恋人は未だにダンシャリの意味すら微塵もわかっていないだろう。部屋を掃除したら、あっという間にきれいになった。

恋人は、死なない。生きている理由はないかもしれないが、死ぬ理由だってない。きっと今頃は、どこか見知らぬ街を歩いているだろう。開放的なその姿を想像すると、なんだか楽しい気分になった。歓楽街のネオンサインの合間に、月が見える。それはそれは明るく大きな月で、楽しい気持ちのまま、少しだけ、泣いた。

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テーマ「断捨離」

2017.5.4