15分文学

15分間で書いたテキストを投稿しています。

もう一度会いたいと思ったが、ついぞその姿を見ることはなかった。島で出会った女の話だ。

固い緑の葉をつける照葉樹がたくさん茂る小さな島で、白浜からの照り返しがわたしの肌をジリジリと焼いた。コバルトブルーの海は底まで透き通り、見たこともないような色の魚がゆらゆらと泳いでいた。

その島の、岩が転がる浜辺で、わたしたちは出会った。女は赤いワンピースを着ていて、海に突き出たゴツゴツとした大きな岩の上に立っていた。肌は白く、しかし太陽によってほんのりと赤みを帯びているように見える。風になびくワンピースは、島に足りない色と質感を補っているようだった。

「島の方ですか?」

わたしは尋ねたが、女は曖昧な笑みを浮かべるばかりだった。よく見るとエキゾチックとも言えるような顔立ちをしている。言語が違うのか、声が聞こえない、あるいはわたしに興味がないのだろうか。女は質問に答えないまま、フッと海の向こう側に目線を移した。わたしも女が見やった方角を見る。リーフが途切れたあたりに白波が立っている。空には雲ひとつない。あるのは白く凶暴的な太陽だけだ。汗を拭こうとポケットからハンカチを出す。ふいに女のほうを見ると、そこにはもう女の姿はなく、ただちゃぽちゃぽと波の音がするばかりだった。

話はそれ以上でも以下でもない。わたしはその数時間後に船に乗って島を出て、今では島から何百キロも離れたところにいる。島の風景を思い出すたび、女の姿が浮かぶ。女は島の不足を補っていたのではない。島そのものだったのだ。

---

テーマ「島」

2017.5.6(13分オーバー)